映画紹介№21「フランキー&アリス~ Frankie & Alice ~」
【2010年カナダ製作/ジェフリー・サックス監督】
「ちょっと」
「大丈夫ですか?」
「聞こえていますか?」
舞台は米国、1972年のカリフォルニア州ロサンゼルス。映画は1人の人間の中に、別の人間が同居している多重人格障害。今日では解離性同一性障害と呼ばれる心の病に悩む「売れっ子黒人ストリッパー」が、原因の解明に懸命な心理療法士ドクター・オズワルドの助けを借りて、自分の封じ込めてきた忌まわしい過去と向き合って、本当の自分を取り戻して行く姿を、熱く描いていく感動的なドラマになっています。
カメラは、フランキーの生まれ育った1957年ジョージア州サバンナの殺風景な地と空を分かつ夕暮れの地平線を映し出します。
「天才がまたクロスワードを完成させている」
「それ私じゃないよ」
「あなたよ」
「記憶にないわ」
ある夜、黒人イケメン男を連れ込んだ部屋で、床に転がっている子どもの「おもちゃ」が忌まわしく、切ない過去を彷彿させ、身体が硬直し、みるみるうちに形相が険しくなり、フランキーの別人格、白人の人種差別主義者の「アリス」に移り変わって行きます。
「触らないで 汚い手で くそったれニガー」
「おまえの体は不品行、性欲、情欲、貪欲で汚れている」
「おまえは神の激怒に触れるに違いない」
と男をなじり見下す言葉をまくし立てます。男は戸惑い
「フランキー、一体 どうしたんだ?」
「わたしはフランキーじゃないわ。“ アリス”よ」
彼女は、そばにあった鈍器で男の頭を殴り飛ばし、そのまま路上に飛び出し、意識を失ってしまいます。
「混乱気味です」
「酔っぱらってはいないようです」
「名前はフランク・K・マードックさんですですね」
「違います」
病院に搬送され、サイコテラピストのボズワルド・ドクターの診察で、記憶障害の兆候はあるが眼振症候はない。フランキーの一連の不自然な行動は“解離性同一性障害”と診断します。
「わたしのダンス 見たことある?」
「君はダンサーか」
「クラシックバレエ?」
「違うわ」
「エキゾチックなダンス」
「ストリッパーなの」
解離性同一性障害とは、自分の中にいくつもの人格が現れ、ある人格が現れている時には、別の人格の時の記憶がなく、生活面でさまざまな支障が出るそうです。これらの症状は、辛い体験を自分から切り離そうとするために起こる、一種の心の防衛反応と考えられているようです。
映画での白人娘「アリス」の人格に移り変わった時のアリスの言動は、人種差別問題にもなり兼ねません。
原因の解明にはまっていく医師オズワルドを演じるステラン・スカルスガルドの渋い安定した演技は圧巻で、フランキー演じるハル・ベリーは第68回ゴールデングローブ賞にノミネートされました。1人で3人の人格を演じ分け、役者冥利に尽きる魅惑的な素晴らしい演技を発揮しています。
(協会理事/竹田正史)