映画紹介№23「 American Sniper ~ アメリカンスナイパー ~ 」
【2014年米国製作 / クリント・イーストウッド 監督】
「女と子どもが出てきた」
「部隊に近づいている」
「女が何か隠し持っている」
この映画は、イラク戦争に4度従軍し、160人以上を狙撃し、その栄誉を称え、『レジェンド』と呼ばれた狙撃手・クリス・カイルの自伝「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」を基に、戦場と家族の狭間での葛藤を描いた作品です。
瓦礫の町の完全制圧を目指して、アメリカ海兵隊の戦車、歩兵が掃討作戦を展開しています。これを後方の建物の屋上からネイビー・シールズ(海軍特殊部隊)が援護しています。
「対戦車手榴弾だ」
「子どもに渡した」
男は子どもに照準を合わせ、スナイパー・ライフルの引き金引き、さらに母親とみられる女を狙撃しました。
「殺やられる前に殺れ」 これがこの男の初めての残酷な狙撃体験でした。
男は幼い時から厳しい父親の猟銃に付いて回り、初めての狩りで、1発で鹿を仕留めました。
「一流のハンターになれるぞ」
と父親は息子を褒め、
「弱い羊たちを守る牧羊犬になれ」
「オオカミにはなるな」
と教えてきました。
男は30歳になるまで、カウボーイに憧れ、ロデオに明け暮れていましたが、タンザニア、ケニアのアメリカ大使館爆破事件を機に、「俺はテロリストを殺したい」と突如、愛国心に目覚め、海軍に志願し、特殊部隊ネイビー・シールズに配属されます。
「狙撃手は海兵隊員1名を護衛し」
「建物の制圧を監視する」
「何があろうと彼らを守れ」
男はイラク戦争で活躍し、『レジェンド』と呼ばれ、敵からは『悪魔』と恐れられアルカイダ側から18万ドルの賞金が賭けられています。しかし、「奴らにも450メートル先から頭を撃ち抜く狙撃兵がいる」。
敵方に元オリンピック射撃選手だった男が、1000メートル級の狙撃兵として現れます。中尉が、伍長が…。海兵隊は苦戦を強いられます。
2回、3回とイラク派遣を繰り返すうちに、男の心にも変化があらわれます。
「なぜまたイラクへ行く の」
「家族はここにいるのよ」
「お願い。 人間らしさを取り戻して」
妻の熱心な懇願で第四回派遣を最後に軍を辞めると決心しました。軍を辞めた後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に襲われ、同じ悩みを持つ退役傷痍軍人の支援に打ち込みます。
2013年2月2日、力になろうとしたPTSDに悩む元海兵隊の兵士と射撃場に向かいますが、その彼に射殺されることになります。
アメリカではこの映画をめぐり、オバマ大統領夫人を巻き込んで「あまりに好戦的とか」「過度のヒローイズムだ」といった大論争があったそうです。
「殺される前に殺す」という戦場での当たり前の戦争原理が、子どもだろうが女であろうが殺すことになります。
「許されざる者」「 グラン・トリノ」など一貫して「アメリカ」を描いてきたクリントン・イーストウッド監督は、この映画で戦争を美化するのではなく、洗いざらいの戦場を再現して、観客に戦争の是非を問う作品としました。
米国での興行成績は「アバター」を超えた大傑作だといわれています。
(協会理事/竹田正史)