映画紹介№27「グローリー/明日への行進“Selma”」
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「グローリー/明日への行進“Selma”」
【2014年米・英製作/エバ・デュバーネイ監督作品】
「この栄誉を」
「2000万人の黒人とともに」
「お受けします」
舞台は1960年代の米国アラバマ州セルマ。旧植民地の相次ぐ独立、冷戦、ベトナム戦争。テレビの普及。国内では黒人の公民権運動が高まり、セルマの「血の日曜日」が起きてしまいます。映画はこれに焦点を当て、黒人の選挙権の獲得までを描いた感動の作品です。
525人のデモ隊は差別主義者の州知事によって抑圧されましたが、「血の日曜」の暴力はテレビや新聞に取り上げられ、世論が大きく変わっていきます。
映画は1964年、キング牧師がノーベル平和賞を授与されるところから始まります。
「南部では威嚇や脅迫で投 票所にも入れない」
「黒人の選挙権を保障する 連邦法を制定していただ きたい」
と、ジョンソン大統領に申し入れますが、「まだ早い、もう少し待ってくれ」と公民権法の制定に動いてくれません。「待てません」「南部では黒人差別で何千人も殺されています」
キング牧師の運動はインドのガンジーの非暴力主義に基づき「交渉」「デモ」「抵抗」を繰り返す正攻法です。
朝には全国紙の一面に載り夜にはテレビのニュースに映るくらいじゃないと白人の意識は変わらない。混乱や監獄行きも、命を失う危険も承知で、人種差別を崩壊させる戦術としてセルマからモンゴメリーまで80㎞の抗議行進を計画します。
一方、差別主義の州知事は
「われわれはこの州で黒人の反抗は許さない」
「ここは南部連合発祥の地」
「何世代も続く隔離政策こそが国のあるべき姿だ」
保安官に指示し、警察隊、騎馬隊をアラバマ川の対岸に出動させ、「とっ捕まえて、川にぶち込んでしまえ」と、デモ行進を待ち構えています。525人の黒人は、教会を出てアラバマ川に達します。
警官隊は丸腰の人々に次から次へ、殴る、蹴るの暴力を繰り返し、騎馬隊は逃げる者に鞭を振りかざし、追い詰めていきます。両親を守り、若い黒人青年は銃で撃たれ、死んでしまいました。
「白だの黒だの関係ない」
「人はみな平等と信じられ るなら」
「セルマに来てほしい」
と、全米の国民に呼びかけます。
裁判所は、「憲法の原則からすれば」「平和的な方法で集まりデモをする権利は正当である」として、大統領も運動の勢いに押され、モンゴメリーへの五日間の行進を認めました。大統領も「人種や肌の色で選挙権を奪われてはならない」として、議会に選挙権の制限を撤廃する法律を提案しました。
キング牧師は13年間、非暴力を貫き公民権運動を牽引してきましたが、それから3年後の1968年に39歳で暗殺されました。
閉じた社会の中で、権力者と被抑圧者、暴力と非暴力、そして黒と白の対比が効いていて、映画は緊張感にみなぎっています。
俳優のブラッド・ピットや人気トーク番組のオブラ・ウィンフリーらが製作を担当。主題歌「グローリー」は第87回アカデミー賞で主題歌賞を受賞しました。
(協会理事/竹田正史)