理事会声明
「今こそ歯科界全体として歯科技工士問題に取り組むべきである」
歯科技工士を取り巻く環境は、長時間労働・低賃金などの諸問題が長らく放置され、養成学校への入学志願者も減少している状況である。そこで、東京歯科保険医協会は、改めて実態を把握するとともに、問題解決に向けた方策を検討すべく、歯科技工士問題検討委員会を立ち上げた。
2020年9月に東京都23区に所在する歯科技工所に対し実施した「歯科技工所アンケート」では、長時間労働、低賃金の過酷な状況が改めて示された。週の労働時間が、過労死ラインといわれる60時間を超えているとの回答が48%あり、60%が週1日以下の休日と回答した。また、可処分所得は200万円以内が22%と最も多く、特に個人開業では54%が300万円以内であると回答している。歯科技工物の価格が安くなる原因と思われるものでは、「歯科技工所間のダンピング競争」「補綴関連の低診療報酬」「歯科医療機関による値下げ圧力」「歯科医療機関の経営悪化」全ての項目で半数以上が「そう思う」と回答しており、歯科技工所の置かれている状況の厳しさが浮き彫りになった。また、保険診療制度に対して今後望む方向として、「保険請求の技工所直接請求」が65%と最も多く、特に 二十代~五十代で技工所が保険請求を直接行うことを求める声が多かった。
歯科技工所、歯科技工士が抱えている問題点については、長時間労働、低賃金だけでなく、歯科技工士の社会的評価の低さや、歯科技工士の業務範囲の狭さ、歯科技工物の低診療報酬、歯科技工士のなり手の少なさや離職率の高さなど多岐に渡っている。
現状のままでは、個人開業の歯科技工士がいなくなる未来もありえる。そうなれば、地域に根差した歯科医療の提供が難しくなる。歯科保険診療の中で歯冠修復、欠損補綴に関わる治療は40%前後を占めており、歯科技工なくしての歯科治療は存在しない。歯科技工所、歯科技工士を取り巻く環境改善には、業務範囲の拡大、保険請求の技工所直接請求や7:3問題の改善などの診療報酬の仕組みの見直し、教育機関の充実などが考えられる。
根本的な問題は、約20年間ほとんど増点されず消費税増税分を考慮すると逆に減点されている歯科補綴関連の診療報酬の低さにある。新規技術が保険導入されたとしても、低い点数での導入であり、小規模ラボでは機材購入に踏み切れず技工物の製作が不可能である。そもそも、日本の歯科保険診療報酬は低く抑えられており、世界と比較しても5分の1~10分の1程度しかないことが問題である。
東京歯科保険医協会は、以前より要求しているように次期診療報酬改定でも、歯科補綴関連の技術料の引き上げを中心とした診療報酬総枠拡大を引き続き求めていく。また、歯科医師のパートナーである歯科技工士、歯科技工所とより一層の対話を深めながら、チェアサイドや訪問診療などでの業務範囲の拡大、診療報酬の仕組みの見直しなどに取り組んでいく。
今こそ歯科界全体が一丸となり、歯科技工士問題に取り組むことこそが解決の一歩になると確信している。
2021年3月26日
東京歯科保険医協会
第21回理事会