社保・学術部長談話「逆ザヤとならない、歯科用貴金属の安定供給を求める」
7月22日の中医協総会で、10月に随時改定を行い、歯科鋳造用金銀パラジウム合金に係る点数を引き下げることが承認された。今年4~6月において、素材価格の変動幅が告示価格よりも5%以上も下落したため、1グラム2662円から1グラム2450円に引き下げるとしている。30グラムで換算すると、7万9860から7万3500円への引き下げである。
しかし、最近の素材価格の状況をみると、7月末頃からパラジウム、金および銀ともに高騰し始めている。このまま金パラの点数引き下げが行われれば、10月以降に逆ザヤになることが強く懸念される。
昨年から続く金パラの高騰に対し、当会は全国の保険医協会・医会とともに、全国保険医団体連合会の市場実勢価格調査「金パラ『逆ザヤ』シミュレータ」に協力し、「逆ザヤ」の実態を明らかにして改善を訴えてきた。その結果、4月および10月に行う随時改定Ⅰに加えて、素材価格が告示価格のプラス・マイナス15%を超えた場合に七月および1月に行う随時改定Ⅱが作られ、今年7月に金パラの引き上げが行われた。
しかし、価格の参照期間と改定時期との乖離の問題は、未だ残されたままである。このまま素材価格が高騰すれば、新型コロナウイルス感染拡大の影響から回復しきれていない歯科医療機関の経営は、再び逼迫する。中医協総会でも、反映させる時期にタイムラグがあるとして、スピーディーな対応を求める意見が出ている。厚労省は、逆ザヤにならないよう、改定は速やかに行うべきである。
また、乖離で言えば、随時改定では金銀パラジウム合金ではなく素材価格を参照することになっている。合金自体の市場価格を参照しない点についても、改めるべきである。
根本的な問題は、投機対象になるパラジウムや金が保険医療材料になっているため、市場価格の変動が保険医療機関の経営に大きな影響を生じさせる点である。このようなことがないように、厚労省の責任で買い取って管理・確保するなど、歯科用金属の安定供給を可能とする公的な仕組みを構築するべきである。
また、6月にチタン冠が保険収載された。新しい材料が保険収載されることは喜ばしいことだが、当初歯科用金属アレルギー患者や臼歯部で補綴的に咬合高径が保てない症例に対して適用を限定して保険収載されると聞き及んでいた。チタン冠は金パラに比べて鋳造によって均質性が取りにくいなどの理工学的特性があり、金パラの代替材料として用いるのは難しい。適切な臨床エビデンスの結果の下、代替材料の保険収載について検討されるべきである。
この談話は、金パラの価格改定に伴う問題の改善を求め、歯科用金属の安定供給を求めるものである。
2020年8月7日
東京歯科保険医協会
社保・学術部長 本橋昌宏