本稿ではワクチン接種後の医療従事者の感染対策やワクチン接種を終えた患者さんについての知見をまとめました。
お引き受けいただきましたのは、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院副病院長で同センター歯科・口腔外科診療科長の丸岡 豊氏。(「東京歯科保険医新聞」2021年7月1日 第616号掲載)
ワクチン接種を終えた医療者の「ふるまい」について
結論から申し上げますと、「ワクチン接種終わった」→「飲み会・会食 即OK」ではありません。ワクチン接種によって「発症」「重症化」を防ぐ効果は確認されておりますが、「感染」「伝播」を防ぐ効果はまだよくわかっておりません。
依然として医療機関を受診する患者さんはワクチン未接種の方が大多数です。そのため、ワクチンを接種した医療者が発症しなくても、気づかないうちに患者さんに新型コロナウイルスを感染させ、患者さんが発症してしまうかもしれません。引き続きマスクの常時着用、手指衛生、3密回避をはじめ、今まで徹底してきた感染対策を変わらずに継続することが重要です。
感染するリスクが極めて高いのが会食です。歓送迎会などを含め同居人以外との会食の自粛が求められます。自宅などに複数人で集まっての食事も会食になりますし、院内での朝食会議・ランチ会議も会食に該当します。
少なくとも私たちがスプレッダーにならないような自重は引き続き必要と思います。私たち医療従事者がなぜ優先接種の対象になったのかの意味をお考えください。
ワクチン接種を受けた患者さんの取り扱いについて
ワクチン接種前に手術を受けた方は術後どれだけの期間を空ければ良いのか、あるいはワクチン接種後にどれほどの期間を空ければ手術を受けられるのか、というお悩みがあると思います。
一般社団法人日本医学会連合からの4月23日付の提言では、これについてはエビデンスに基づく明確な基準は現在のところない、としています。術後には身体に加わった侵襲に伴う免疫応答や異化の亢進などの理由でワクチン接種は2週間ほど待機することが一般的であり、適切な接種時期の決定にかかる参考となる事実もないため、この2週間というのが妥当ではないか、ということのようです。同様にワクチン接種後の手術については一過性の副反応の頻度が少なくなる接種後3日目以降であれば手術は可能なのではないかとしています。医学会連合が発出した「COVID-19 ワクチンの普及と開発に関する提言(修正第4版 2021年4月23日)」をご参照ください。
ただ注意すべきこととして、この提言には公益社団法人日本麻酔科学会が名を連ねておりません。日本麻酔科学会は「mRNA COVID-19 ワクチン接種と手術時期について」を別に提言しており、微妙な温度差が垣間見えます。「全身麻酔関連についていえばまだまだわからないことはたくさんある」という立場のようですので、麻酔科担当医師との意思疎通が必要と思われます。
※注釈※
発症=症状が出ること
重症化=入院や集中治療が必要な状態になること
感染=ウイルスをもらうこと
伝播=ウイルスを他の人にうつすこと
現在、新規感染者数は再び増加の様相を呈し、このままではオリンピックに関連して8月初め頃に第5波襲来との予測もあり、やはり予断を許さないところです。
私たちは今、未体験の時代を生きています。日本より早くワクチン接種が進んでいる各国では様々な推奨のもと、一部緩和がされ始めております。しかし、それらの推奨をどこまで取り入れていくかについては、ワクチン接種後の対応や行動に関して、今後の流行状況やワクチン接種の状況を踏まえて判断されますので、常に最新情報には注意を払う必要があるでしょう。
―一般社団法人医学会連合が提言した「COVID-19 ワクチンの普及と開発に関する提言(修正第 4 版 2021 年 4 月 23 日)」PDF
https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2021/04/20210426063706.pdf
―公益社団法人日本麻酔科学会が提言した「mRNA COVID-19 ワクチン接種と手術時期について」PDF
https://anesth.or.jp/img/upload/ckeditor/files/2003_35_700_1.pdf
【プロフィール】
丸岡 豊 (まるおか・ゆたか)
[現職]
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 副病院長
同 歯科・口腔外科 診療科長
東京医科歯科大学 歯学部 臨床教授
[略歴]
1990年 東北大学 歯学部 卒業
1994年 東京医科歯科大学大学院 修了(博士・歯学)
1997年 米国Vanderbilt University Medical School, Cell Biology, Research Associate
2004年 東京医科歯科大学大学院 顎口腔外科学分野 講師
2007年 国立国際医療研究センター病院 歯科・口腔外科 診療科長
2019年 国立国際医療研究センター病院 副病院長(併任)
現在に至る