―はじめに
本連載では、社会保険診療報酬支払基金の概要とともに、特に、皆様とのご縁が深い審査支払業務に関し、適正なレセプト請求に向けての私見もあわせて紹介させていただきます。
―支払基金の位置づけ
戦前と戦後すぐの時期は、「歯科医師会」が歯科の審査支払業務を担ってきましたが、1947(昭和22)年に当時の歯科医師会は解散させられ、混乱が生じたため、1948(昭和23)年に新たに審査支払業務を担う「特殊法人」として支払基金が発足。その後、行政改革の一環の中で2003(平成15)年に「特別の法律に基づく民間法人」へと移行しています。
支払基金の特徴は、診療担当者代表、保険者代表、被保険者代表、公益代表から同数ずつの役員で構成されている「中立の第三者機関」という点です。一時、国民健康保険(国保)の審査支払業務を行っている各都道府県の「国民健康保険団体連合会(国保連)」およびその中央組織の「国民健康保険中央会(中央会)」と、支払基金を統合すべきという議論が起こりました。
しかしながら、国保連や中央会の役員構成は主として首長という「保険者」そのものであって、組織体としては「中立の第三者機関」という性格ではありません。また、審査支払業務以外の業務は両者で大きく異なり、現在では審査支払システムの共同開発や審査基準の統一など、審査支払業務を中心に連携を図っているところです。
―支払基金の業務の概要
表1に示すとおり、主な業務としては、①審査支払に関する業務、②保健医療情報の活用に関する業務、③保険者等との財政調整等に関する業務―の3つがあります。
支払基金発足以来、皆様とのご縁が深いのが、いわゆる「社保」のレセプトの審査支払業務で、近年ですと、新たに「オンライン資格確認等システム」の運用など歯科医療現場におけるDXの一翼を担うこととなり、顔認証付きカードリーダーの導入などでも皆様とのご縁が深くなってきています。
次回以降、審査支払に関する業務の概要、審査結果の都道府県間の不合理な差異解消に向けての取り組み、適正なレセプト請求に向けてご留意いただきたいこと、審査結果(査定)に対する疑問等への対応について、紹介させていただきます。
表1.社会保険診療報酬支払基金の主な業務
①審査支払に関する業務 | 主として被用者保険(いわゆる「社保」)における診療報酬の適正な審査と迅速な支払を行っています。審査においては、医学・歯科医学的な観点を踏まえ、保険診療(診療報酬点数表、療養 担当規則等)に適合するかどうかを確認しています。さらに、「紛争処理機関」として、医療機関や保険者から申し立てがあった場合には、再審査を行っています。 |
② 保健医療情報の活用に関する業務 |
オンライン資格確認等のシステムの運用、電子処方箋管理サービスの開発、健康スコアリングレポートの作成、データヘルスポータルサイトの運営、NDBの受託業務などを行っています。データヘルス改革の確立に貢献する役割を担っており、今後、医療におけるビッグデータ分析、医療DXの中核機関としての役割が期待されています。 |
③ 保険者等との財政調整等に関する業務 | 日本の公的医療保険は、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療等に分かれており、医療費が増嵩しやすい高齢者の割合が大きい保険者は財政が厳しくなる状況にあります。そのため、保険者間の財政調整が法律で定められ、法律に基づき、財政調整業務を行っています。また、特定健診等の決済代行、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給などの業務も行っています。 |
山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事
やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、2015年7月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。