第17回 卒業生を酷使している歯科大附属病院の現実

◆歯科大には歯科医師になる魅力を示す義務が

2019年6月28日、文部科学省高等教育局は「大学病院で診療に従事する教員等以外の医師・歯科医師に対する処遇に関する調査結果」を発表した。文科省が全国108の大学病院を調査したところ、2191人の無給医が確認されたという。

この発表を受け、新聞各紙はその日の夕刊や翌日の朝夕刊で大きく扱った。「大学病院『無給医』2191人/院生や専攻医/文科省、改善求める」(「読売新聞」2019年6月28日夕刊)、「医師ら2191人給与未払い」(「朝日新聞」2019年6月29日朝刊)…。

地方紙は共同通信の配信を基に記事を構成したものが多かったが、独自取材していたのが「北海道新聞」(2019年6月29日朝刊)。「休み月3日/道内『無給医』実態証言/『文句言えばつぶされる』」と、センセーショナルな取り上げ方をしていた。

筆者にとっても文科省発表の内容は衝撃的だったが、理由は単に無給医の多さに驚いたからではない。かつて、大学病院の中には初期研修医にほとんど給与を支払わないところがあった。が、2004年に医科系で新臨床研修医制度が始まって以降、研修医が無給で働かされることはなくなった。その一方で、大学院生や専門医を目指す専攻医に対して、給与を払っていないケースがあることは耳に入っていた。

研鑽や研究目的で診療を行っているので、給与を払う必要がないというのが大学側の論理だった。しかし実際には、他の勤務医と同じ診療業務をさせられており、労働基準法に照らしても許されない状態が続いていた。何より驚かされたのは、その無給医の中に数多くの歯科医師が含まれていると推察されたことだった。

◆歯科系に多い無給医

今回の文科省発表では、歯科医師の割合が示されているわけではない。にもかかわらずそう確信できるのは、無給医の人数が多い大学病院の中に歯科大学(歯学部)の附属病院がかなり含まれていたからだ。

歯科大学附属病院は医科系の診療科を持っているところがほとんどなので、それだけで無給の歯科医師が多いと決めつけるわけにはいかない。だが、もう少し詳しく見ていくと、その推察が間違いではないことがわかってくる。

医学部と歯学部の両方を擁する大学の中には、それぞれの附属病院を持っているケースがある。たとえば、昭和大の場合、昭和大病院のほかに昭和大歯科病院があり、こちらの診療科はすべて歯科系の診療科で、ほぼ全員が歯科医師。

昭和大病院の無給医が54人に対し、歯科病院のほうは119人と倍以上もいた。東京医科歯科大の場合は、医学部附属病院には無給医は1人もいなかったのに対し、歯学部附属病院には23人いた。

今年の歯科医師国家試験の合格率は63.7%だ。歯科大に入っても歯科医師になれるかどうかわからない上に、附属病院までが卒業生を酷使している現実。歯科大には今一度、歯科医師になる魅力を示す義務があるのではないだろうか。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。