第1回 がん闘病で見えた医療システムの横顔

【入院先病院の周術期口腔機能管理の説明に「納得できない部分」も】

私は、日本歯科新聞社『アポロニア21』編集長の水谷惟紗久です。普段は、全国の歯科医療現場を取材。1998年以来、国内外で延べ1000件以上を訪問してきました。ところが2018年11月に下咽頭がんが見つかり、12月に手術を受けました。手術で切除した部位に、がんの被膜外進展が見つかり、放射線化学療法も経験しました。手術により、咽頭を全摘出したため声を失ったものの、現在、電気喉頭を利用してコミュニケーションを図り、取材もこなしています。何しろ手術はおろか、入院も初めてで不安も大きかったのですが、1人の記者として学んだことも多かったです。

◆「病診連携」の風穴

歯科においても、他科や病院との連携が重視されていますが、私の場合、喉の違和感に気付いてから内科、耳鼻科のクリニックに通ったものの、そこでは病気の発見には至りませんでした。「気のせいでしょう」、「乾燥したのかな」と経過観察をするうちに、急速に声がガラガラになり、「いよいよこれは危険」と患者なりに判断して近隣の病院耳鼻科に。そこで受けた内視鏡検査で「悪性腫瘍の疑い」とされ、系列の大学病院に送られました。結果は進行がんでした。即手術となり、ギリギリのところで一命をとりとめられたのは、自己判断で街の診療所から中小病院、大病院という流れを飛び越えたおかげだったのです。

◆高額療養費制度で安心

人によって差があると思いますが、進行がんで生命の危険があると説明され、一番心配したのは経済的なことでした。「仕事ができなくなって収入が途絶するのでは?」、「高い治療費で家計が圧迫されるかも」と不安になりました。

入院前には、どんな治療になるか、それらのコストはどの程度かが分かりません。そのような中、所得に応じて高額な治療費のほとんどを保険で給付してくれる高額療養費制度は心の支えになりました。実は、記者としては「医療費のムダ使いにつながるのでは?」と疑念を持っていた制度ですが、自身が患者になってありがたみを痛感しました。

◆周術期口腔機能管理

入院先の病院では、院内の口腔科で周術期口腔機能管理を行っていました。術前、術後のセルフケアを指導する、放射線治療で使用するマウスピースを作成するなどの役割を担っています。

放射線治療での喉の痛み、突然進む味覚異常は、大きな不安につながりますが、個人差が大きいので一般的な説明では納得できない部分もありました。痛みの強い時のケアも分からなかったとはいえ、おススメのセルフケアグッズなどを聞いておけば良かったかな、と思いました。

ほかにも、お伝えしたいことがたくさんありますが、またの機会に。

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【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。