去る2月14日、次期日本歯科医師会会長に高橋英登氏(日本歯科医師連盟会長)が内定し、新しい執行部に期待が寄せられることになりました。高橋氏は、立候補時の挨拶で「〝物言う歯科医師会〟に変革していきたい」と述べていましたので、今後の言動に注目していきたいところです。
さて、1月23日に召集された第211回国会での衆院予算委員会では、2023年度予算成立に向け審議を進めていますが、歯科を担う厚労省の所轄内容は、国民の生活に密着している分野が非常に多く、国民が身近に感じる政策が多いのは事実です。私が歯科医療界に身を置いたのが90年からですが、当時は厚労省医政局歯科衛生課長(後年、歯科保健課に改称)は宮武光吉氏(東京医科歯科大学)で以後、佐治靖介氏(大阪大学・故人)、石井拓男氏(愛知学院大学)、上條英之氏(東京歯科大学)、瀧口徹氏(新潟大学)、山内雅司氏(愛知学院大学)、日高勝美氏(九州大学)、鳥山佳夫氏(大阪大学)、田口円裕氏(長崎大学)、そして現在の小椋正之氏(長崎大学)により今日に至っています。各氏への寸評は控えますが私はこの方々には本当にお世話になりました。
現在に至るまでの間、強く印象に残っていることは、「歯科衛生課が歯科保健課に改称」(7年)、「健康増進法」(02年)、「贈収賄容疑で歯科医師ら逮捕」(04年)、「食育基本法」(05年)、「歯科技工物海外委託訴訟東京地裁判決」(08年)、「歯科口腔保健法」(11年)、「インプラント訴訟判決」(13年)などがあります。一方、歯科行政では、やはり「8020運動」が始動したことによる「8020運動推進事業」(92年)、「健康日本21(第一次)」(00年)、「健康日本21(第二次)」(13年)が歯科医療界の方向性・時代認識に大きな影響を与えたと思います。
当時、懇意にしていました日F(特定非営利活動法人日本フッ化物むし歯予防協会)の有志から、地域歯科保健、予防歯科の推進、フロリデーションの課題、フッ化物の応用、歯科衛生士との関係など意見交換を重ねてきました。さらに個人的でしたが、自由参加にして、一般社団法人日本口腔衛生学会会員、業界マスコミ人、歯科企業関係者の有志と大学関係者・開業医との懇談する機会を設け理解を深めました。貴重な経験であり、私の歯科への基本認識を培いました。
時代変遷がある中で、歯科行政でも厚労省医政局歯科保健課に設置されていた「歯科口腔保健推進室」が訓令室から省令室に昇格(17年)してスタート。まさに、歯科口腔保健法の下で、基本的施策、財政上措置、口腔保健支援センターの普及に努めると同時に、関係省庁との調整・連携の司令塔的責務を担うことになりました。
そして、「骨太の方針2022」で話題になった「国民皆歯科健診」。政策に伴う法的整備、事業の推進計画などの課題への対応が急務とされてきました。こうした中で、今後の歯科医療の役割について、前歯科保健課長の田口東京歯科大教授は、①従来の「治療中心型」だけでなく、口腔機能の維持・回復していく「治療・管理・連携型」の治療が求められる、②歯科診療報酬改定は、継続的な口腔管理、口腔疾患の重症化予防や口腔機能に着目した改定になる、③地域において、病院歯科と歯科診療所の役割分担・機能分化。歯科診療所間での役割分担に着目した提供体制の構築が進む、④診療室完結型から「かかりつけ歯科医」を中心とした地域完結型体制に転換していく―との4項目を掲げました。
◆将来を見据えた構想
近年では、新たに歯科と「食事・栄養」の議論がクローズアップされています。歯科医療界として時代遅れにならないよう、ネット社会におけるIT活用による歯科診療・地域歯科保健、さらに将来を見据えた歯科独自の「1・5次歯科診療所」構想の検討など、課題は目白押しです。国民の健康観、人口動態の激変、歯科疾病構造の変化などへの理解と適切な判断が求められる歯科保健課の責務は増すばかりです。
かつて、宮武氏が鶴見大学歯学部教授時代に、「多様化する国民の行政需要に応えるため、各種のネットワークを駆使し、優れた感性を持ち適正な判断ができる者が必要となる。高い教養を基礎に、優れた専門知識を持つ行政官が歯科衛生行政に参入されることを望む」と述べていましたが、まさに現在がそうなのかもしれません。
◆奥村勝氏プロフィール
おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。