歯科医療を経済から見てみるNo.2 家計調査からみた歯科関連支出の特性

「歯科医療を経済から見てみる」というタイトルの連載でお話を進めていきます。いろいろな経済資料や経済学的観点から、歯科医療を考えていきます。今回も、「家計調査」からですが、歯科関連支出の特性を見てみました。前回の繰り返しとなりますが、家計調査は、家計から支払われた金額で示されています。

今回は、2022年の1年間の年間収入五分位階級別1世帯当たりの各項目の全世帯平均支出金額との比を図に示しました。ⅠからⅤは、世帯の年間収入による区分で、ⅠからⅤに向かって収入が増加していきます。縦軸は、支払額を平均額に対する比で示しています。平均支出額を1としています。

横軸の項目を見ますと、「」マークがついているものは包括項目です。医薬品はすべての医薬品の総額ですが、その中から感冒薬と胃腸薬を別途に示しています。同様に、保健医療サービスは包括項目で、ここから医科診療代と歯科診療代を別途示しています。歯ブラシは単独の項目として、石けん類・化粧品は包括項目とし、その中から歯磨き(歯磨剤を示します。なお、この項目に入っているのは、設定された時期では、ほとんどの歯磨剤が化粧品歯磨剤であったためです)を特出しています。まったく別途項目として、たばこをあげました。

◆歯科診療代と歯磨剤

まず、見ていただきたいのが歯科診療代です。先月触れたように、収入による支出比が大きいことが、棒グラフ間の傾きが大きいことから見て取れます。すなわち、収入が多い家庭ほど多く支出していることが見られます。歯科関連項目として、歯ブラシと歯磨きを見ますと、両項目とも同様に収入が多い家庭ほど多く支出しています。歯磨きは若干差が弱い項目です。しかし、この2項目を見ると平均支出額(左表参照)で、歯磨き1966円、歯ブラシ3817円と2倍ほどの額ですが、Ⅰ区分とⅤ区分の差は、歯ブラシは1254円、歯磨き1588円で、歯磨きのほうが差は少ない傾向が見られます。これは、多くの日本人が歯磨剤を意識して選択しているためかと思われます。

 

◆医科関連項目の特徴

医科関連項目では、医科診療代に見られるように、収入による差はあまりありません。感冒薬だけ差が出ていますが、胃腸薬は、医薬品全体同様に差はほとんどありません。保健医療サービスもⅤ区分のみが高い傾向はありますが、これは多くの診療行為が国民皆保険制度にカバーされているためと考えられます。

今回、たばこを取り上げましたが、これは、収入が高いⅤ区分が低いのは偶然ではなく、ほぼ毎年見られます。各方向から見ていくと、収入が高い人ほど健康意識が高い傾向が見られます。これについては、歯科診療の際も気にかけていくと良いかもしれません。

いずれにせよ、歯科関連は収入による差が見られる傾向が強く、歯科診療代以外でも日常生活関係からも見られました。

このような特徴をご存じであったでしょうか。

「東京歯科保険医新聞」2023101日号(No.64311面掲載

 

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尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを