【荻原博子さん新連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています
第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています
経済ジャーナリスト・荻原博子さんによる「マイナ保険証の〝失態〞を追う〜このまま見過すことはできません〜」。運用開始以降、トラブルが相次ぐ〝マイナ保険証〞をテーマに、経済分野の専門家の視点からマイナンバー問題の根幹にあるものや、その行く末について10回にわたり解説していただく。
昨年4月の利用率6.30%が、調査のたびに下がって12月には4.29%と8カ月連続の低下。さすがの政府も慌てて、医療機関に「マイナ保険証」の利用を促進させるためのアンケートを行いました。実はこのアンケートが、国からの「嫌がらせ」とも受けとれることから問題になっています。
これは「マイナ保険証利用促進状況に係るアンケートのお願い」というもの。「マイナ保険証」を普及させるために、どんな取り組みをしているのかを各医療機関に聞いています。何らかの取り組みをしているところは、そのままアンケートに答えて次に進むことができますが、問題は、何もしていないところ、もしくは面倒なのでなるべくマイナ保険証を使ってほしくない行動を取っているようなところは、このアンケートに答えられないこと。
普通のアンケートなら、「答えない」という選択ができるようになっています。しかし、このアンケートの画面には、答えない人が画面を閉じるマークや画面をスキップする機能がない。しかも、支払基金にレセプトを送る時にこのアンケートが出てくるので、答えないと、レセプト提出画面にたどり着けないのです。
◆不便さは改善せぬまま、利用率向上で金をばらまく
このアンケートは、各医療機関の「マイナ保険証」への取り組みを調べるというよりも、これによって間接的に医療機関から患者に「マイナ保険証」の利用を呼びかけさせたい意図があります。「マイナ保険証を積極的に使うよう呼びかけない医療機関に対して、レセプトを盾にとった脅しをかけている」と言う医師もいます。
その一方で、利用率を上げた医療機関に対しては、支援金を支給したり、診療報酬の加算も検討する。つまり、「マイナ保険証」を普及させるための、あからさまな「アメとムチ政策」です。こんなあからさまな方法を取らなくても、「マイナ保険証」が患者にも医療機関にも便利で安心できるものだったら、自然に利用率は右肩上がりになるはずです。
ところが、「マイナ保険証」を使おうとすると、顔認証がされなかったり、暗証番号を3回間違えると使えなくなるなどのトラブルや不便さがあり、そこで使えなくなった人が10割負担にならないように「被保険者資格申立書」を書いてもらうと、そこには保険証の有無や保険種別、保険者等名称、事業所名、保険証の交付を受けた時期、一部負担金の割合など6項目の書き込み枠があります。ほとんどの人は答えられないので、「□わからない」にチェックすると思いますが、「わからない」にチェックされたところは、後から医療機関が可能な限り調べなくてはならないのです。それが大変なので、最初から「マイナ保険証」など使わないでほしいと思っている医療機関が多いでしょう。
◆官庁でも使われない「マイナ保険証」
政府が税金を使って本当にやらなくてはいけないのは、「マイナ保険証」の利用率向上のために医療機関に対して「アメとムチ」を振るうことではなく、「これまでの保険証よりもずっと便利だ」とみんなが言うくらいに使い勝手を改善すること。また、いまだに健康保険証の情報が、住民基本台帳と一致しないケースが87万件もある(2024年1月28日、NHK報道)というのも論外です。
ちなみに、官庁での利用率は、管轄する総務省が6.26%、法務省が4.88% 、厚生労働省の第一共済組合が5.98%で第二共済組合は3.96%という状況。内閣府や農林水産省など4省庁が5%台、文部科学省や法務省4%台、外務省3.77%、防衛省2.50%という低さ(2月29日、第175回社会保障審議会医療保険部会)。自分たちが使わないものを、一般の病院や患者に使わせるのは筋違い。みんなが使いたいと思う便利なものにできないなら、いっそ廃止したほうが、税金の無駄遣いにならずに済むのではないでしょうか。
12【全文を読む】第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています
◆「東京歯科保険医新聞」2024年4月1日号12面掲載
経済ジャーナリスト 荻原 博子
プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。