【インタビュー】奥村勝氏(オクネット代表)協会は「基本的なスタンスを守ること」が大事

インタビュー/奥村勝氏(オフィスオクネット代表、歯科医療ジャーナリスト)

協会は「基本的なスタンスを守ること」が大事

奥村 勝/オクネット代表、歯科ジャーナリスト

毎月、全国の保険医協会・医会、保団連ほか医療関係団体による国会内集会が開催される。一般紙、テレビ、専門紙ほか、各種メディアも取材に訪れるが、取材陣の中で毎回、老練な方をお見受けする。レコーダーなし、キーボードも叩かず…。じっくり聞きながら時折メモを走らせる。それでいて、翌日の配信ニュースは適時適格な内容、文字数、表現だ。その人物が、今回ご紹介する奥村勝氏である。

奥村氏は、自身が設立したオクネットの代表で、企業勤務を経て歯科技工士を務め、その後、歯科医療関連専門誌の編集長として取材、編集に携わるなど、異色の経歴を持つ存在だ。「歯科ジャーナリスト」「歯系議員」などの用語は奥村氏作といわれている。その奥村氏には、協会の機関紙「東京歯科保険医新聞」の202210月号から本年4月号まで、延べ18回にわたり「歯科界への私的回想録」を連載していただいた。今回は連載時に思ったこと、協会への一言などを中心にお話を伺った。

【口腔をサポートする歯科は責任重大】

 ― 聞き手 今回の連載終了にあたり、思うところをお聞かせください。

◆奥村氏 連載前の構想と、連載開始後の原稿内容はかなり異なりました。歯科医師と患者さんとその家族、歯科医師とスタッフなどを巡るコミュニケーションの大切さをもっと全面に押し出したり、もっと歯科技工士の本音や自分自身の考え方を打ち出しても良かったかなとも思いました。

 ― 連載初回に、ご自身の口唇口蓋裂の手術に至るまでの経緯などを紹介されましたが、このことの歯科への意図は。

1954年生まれの私は、この瘢痕(はんこん)のため、子ども時代からいろいろなことを経験しました。しかし時が経つとともに、「口の中は目に見えないが、大事だ」ということに気付きました。口唇口蓋裂は、その人の人生そのものです。また、会話の時も食べる時も口は大事。そして、これをサポートする歯科は責任重大ということです。

【人対人のコミュニケーションづくり】

 ― 政治経済学部で学んだ後、歯科技工士の道に進まれましたが、そのきっかけ、歯科技工現場での経験などについて。

私の父は、蔵前のプラモデル製造、プラスチックと塩化ビニール加工の営業・卸の会社に勤務していました。大学進学の背中を押してもらい、大学卒業後、1年半はインテリア業界で働きましたが、手仕事に長けていた父から手に職をつけることの大切さを論され、「口」に縁のある歯科技工士を思い浮かべ、東京歯科技工専門学校(2010年閉校)に入学しました。卒業後は新小岩駅至近の歯科診療所の院内ラボに入り、当時言われていた「歯科技工士は、10年やってどうかだ」を目標に勤しみました。診療所内で自作の歯科技工物への患者さんの反応を見たり、話をする中で、「診療所内では、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、スタッフさんとのコミュニケーションが非常に大事」であると実感しました。

 ― ところで、当協会のメディア懇談会には設立直 後から参加されていますが、思うところを。

記者会見では、参加者は主催者側の意向に一定の配慮をします。しかし、懇談会はそうではありません。記者会見でも懇談会でも、終了後に雑談や話し込むことができれば大したものだと思います。協会のメディア懇談会は終了後に場所を移して懇談を行い、参加メディアの記者、編集者、協会の役員、事務局員が面と向かって意見したり、記者同士の知見を持ち寄ったりしています。こういった情報面での交流ができることは、とても大事です。今の時代は、IT、AI、SNSなど、さまざまな情報伝達手段がありますが、どのようなコミュニティであっても、やはり今後も話し手と聞き手が向かい合って、直接、言葉でやり取りし、相手の語気や表情を五感で感じながら行う対話、会話はやはり大切ではないかと思います。このことは、歯科診療所での院長、患者さん、スタッフのコミュニケーションづくり、さらに最近では、歯科と関連がある様々な関連職種の人たちとのコミュニケーションづくりにも、通じるものがあると思います。

【取材の実際と人脈作りの要諦】

 ― 取材時の基本的スタイルについて。また、議員や官僚、歯科医療関係者との人間関係構築について、思うところを。

取材時には、キーワードをメモするだけです。キーワードにはイメージが残っていますから、後でそれを読むと大事な言葉が脳裏に鮮明に表れます。あとは、資料の要旨、概要を参考にします。人脈については、国会、役所を問わず、慌ただしい時ではなく「つまらない(・ ・ ・ ・ ・)時に足を運ぶこと」が大事。大雨、電車が運休、国会休会中などに伺うほうがインパクトがあるようです。また、取材相手と自分の意見が違う時は必ずその理由を聞く。これは、きっかけを作る上で重要。ただ最初から「人脈を作ろう」と力むのは良くないです。

 ― 記者の目を通して、協会の今そして近未来につ いてアドバイスを一言。

今のように、会員数が増えることは良いことですが、大事なことは、設立時からの基本的なスタンスを守ることです。設立の趣旨や、基本的なスタンス、これまで対外的に発表してきた決議、理事会声明などで示した軸は大切です。初めてメディア懇談会や定期総会を取材した頃は協会は「固い固い組織」だと思っていました。しかし、だんだんと「外に対してオープンな雰囲気の組織」「確かに保険診療を広めるために活動している組織」という印象に変わりました。

 ―最後に、大事にしてきた言葉について。

明大の恩師にいただいた「歩一歩(あゆみいっぽ)」で、個人的には「無為自然」です。やれるだけのことをやった中での結果はすべて受け入れます。

 ―本日は永田町、霞が関への取材前のお時間、ありがとうございました。

 

プロフィール 奥村    (おくむら・まさる)/オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任、退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

 

 

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