歯科医療点描⑤ 不合理・不公正な消費税/ 益税・損税は税の公平性を逸脱

不合理・不公正な消費税/ 益税・損税は税の公平性を逸脱

軽減税率の範囲を巡って「消費税」が連日の紙面を賑わせた。改めて思うのだが、これほど不合理、不公平な税金は珍しい。 

税金は原則、公平でなくてはならない。ところが、1989年に導入された日本の消費税は、明らかに損をする業種、得をする業種を生んでいる。

物を売買する時、売り上げ額にかかる消費税は買う人が売る人に払い、売る人は受け取った消費税から自分の仕入時に払った消費税を引いた分を国に納める。最後に買う人(消費者)は、今なら価格の8%を余分に払う。 

ところで、なぜか税金や授業料、医療費等が非課税になった。その他、外国で売られる輸出製品は原理的に消費税を取れない。

医療界の窓口の日本医師会は、医療費が上がると患者が減るから非課税がいいと誤解していたようだ。医師会は消費税の仕組みを理解しておらず大蔵省(当時)は特に説明しなかった。おそらくは医療費改定での対決のシッペ返しだったのではないだろうか。この結果、医療機関は薬や器具を買う時に消費税を払うが、非課税なので患者からは取れず、持ち出す破目になった。 税金や授業料は自由に値上げできる。しかし、公定価格の医療費は自由にならない。似た立場の輸出産業には、国は輸出振興策として消費税分を還付する「戻し税」制度を用意した。結局、医療機関が一番の「損税」を抱え込むことになった。

逆の「益税」もある。手続き簡素化を名目に商店が消費者から受け取った税金を概算で済ませ、しかも小規模店は納税を免除した。軽減税率の導入時には計算機器類が間に合わず、益税が増えるもやむなし、とされている。サラリーマンは給料から所得税を天引きされているが、いわば小企業は天引きした税金をそのままいただいてもよい、という制度だ。諸外国ではきちんと計算して納税する仕組みを作っている。教育が普及し、真面目だった日本人のレベル低下はひどい。

国は診療報酬の改定で医療機関の損税を補填している建前だ。しかし補填は一部分に過ぎないし、第一、医療機関ごとに異なる税額を一律の加算で補えるはずがない。

高額の医療機器が多く、建設費のかかる大規模病院ほど損税額は大きい。薄利の病院に次の消費税2%増は厳しい。医療誌『ロハス・メディカル』は「消費税の危険なワナ、良い病院が潰れる!」と、特集(201512月号)で警告している。

ともかく、益税・損税は税の公平原則を逸脱し国民をバカにしているとしかいいようがない。損税の解決法も医療費の課税か、戻し税のような制度の新設しかありえない。

私は何年か前から同じ主張をくり返しているが医療界の幹部は物分かりがよいのか悪いのか、いつの間にか政府と妥協し、問題は先送りになっている。

医療ジャーナリスト 田辺功

「東京歯科保険医新聞」201611日号7面掲載

 

【略歴】たなべ・いさお/1944年生まれ。68年東京大学工学部航空学科卒。同年朝日新聞社入社。2008年、朝日新聞社を退社後、医療ジャーナリストとして活躍中。著書に「かしこい患者力―よい病院と医者選び11の心得」(西村書店)、「医療の周辺その周辺」(ライフ企画)「心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る」(西村書店)、「続 お医者さんも知らない治療法教えます―こんな病気も治る!」(西村書店)ほか多数。