高額な自由診療は技術力と患者への説明力が必要/経営には地域特性を考慮すべき
近年、歯科医師過剰が問題視されている。一方で、歯科医師の免許は持っているが実際は大学に勤めている、女性の場合は家庭に入っているなどの事情で、診療をしていない人たちも少なくないので、「現実的に過剰というほどではない」との声もある。また、歯科診療所数もコンビニエンスストアの店舗数を上回り、過当競争の激化が指摘されているが、こちらも地域によって歯科診療所過疎地もあるので、一律に過剰とはいえないとの指摘がある。
少なくとも首都圏、特に都内では歯科診療所の看板がよく目に入る。以前、診療報酬債権を供担保僑として現金を得る診療報酬債権ファクタリングの取材をした際、先方が「ファクタリングを利用するのは歯科医院と介護事業者に多い。歯科医院は自転車操業に近い経営だったり、結局、廃業に至るケースも少なくなかったりする」と話していた。
▼患者が自由診療を選ぶ時
最近の取材経験でいえば、競争が激化する状況下でも経営が好調な歯科診療所はある。自由診療を主軸に「短期集中治療」「マイクロスコープを使った最先端治療」「完全個室制」をウリにする東京・港区の歯科診療所では、自由診療と保険診療の両方の内容を提示するが、患者が主体的に自由診療を選ぶケースが大いという。診療所長はブログやメディアを通じて口腔ケアと健康に関する積極的な情報発信や啓発活動も行っており、患者は各地の富裕層や駐日外国人が多いそうだ。千葉市内の歯科診療所では、口腔内カメラで撮った画像をモニターに映し、患者に症状の説明をしながら治療の了解を得るようにしていた。診療所長は「歯科診療というと、高額な自由診療を押し付けがちなイメージがあるかもしれないが、患者さんと、とことんコミュニケーションを取って、患者さんも私も納得できる治療を選択している」と話す。さらに、スタッフが歯に関する院内便りを作成したり、地元のイベント情報を院内に掲示したりするなど地域密着型の歯科診療所づくりに取り組んでいた。
▼健康意識と要求の違い
歯科医師の説明と患者の納得が重要だ。納得できれば、高額な自由診療でも患者は自らが選ぶ。結果的に、歯科診療所の収益安定につながる。ただし、その順番が逆になってはいけない。もちろん地域特性を見据えた経営は重要だ。患者の健康意識や学歴、所得、治療要求によって保険診療・自由診療のいずれかが主軸になる。
どちらにせよ、ベースにあるのは歯科医師自身の技術力。そして患者と向き合って説明して納得を得る説明力。さらに人間性が欠かせない。その上で、優れた接遇やサービス、先進機器が、付加価値として患者から評価されるようだ。逆に、このレベルが低いと、口コミやサイトで批判されることになる。
筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男
「東京歯科保険医新聞」2017年5月1日号6面掲載