医科メディアから見た歯科医療界⑧  歯科医療政策をサポートするシンクタンク機能の強化を

歯科医療政策をサポートするシンクタンク機能の強化を

歯科診療所が歯科用ハンドピースを使い回し、院内感染のリスクが生じているとの報道があった。厚生労働省は医政局歯科保健課長名で、各都道府県の医務主管部局長などに対し、使用後の滅菌などを医療機関に指導するよう通知を出した。

滅菌には多額の費用がかかることもあり、歯科医療界からは「歯科医院から院内感染が発生したなど聞いたことがない」「医科でも使用後の内視鏡はアルコールで拭いているのに、おとがめなしか」などの不満や批判の声が聞こえる。

◆厚労省歯系技官を動かす秘策とは

それだけにとどまらず、歯科を医科より低く見ていることによる、いじめや脅しの措置と受け取る向きもある。だが、それは歯科医療界の力のなさだけが招いたのではない。

厚労省の医系技官は301人(本年1月時点)。うち、歯科医師免許保有者は2030人と、医師免許保有者と比べて人数が圧倒的に少ない。ポストに関しても、医師は次官級の「医務技監」にまでなれるが、歯科医師は歯科保健課長止まり。つまり、歯科医療政策に関わる人材の層が極端に薄く、歯科系技官の省内における発言力も弱いのだ。

医療政策は政府や厚労官僚の方針だけでなく、国会議員の活動、審議会における有識者の発言、メディアの報道などによって少しずつ形付けがなされていく。

このような外部の動きには、厚労官僚も新たな情報や知恵を得られる利点がある。歯科医療界も外部の力を通じ、医系技官に知恵や情報を与えたり、揺さぶりをかけたりするといい。

◆日医総研から学ぶ体制と政策企画力

医療政策に関しては、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が注目すべき存在だ。所長には日本医師会(日医)の横倉義武会長自らが就く。研究員は部長以下18人で、この他に客員研究員16人、海外駐在研究員四人の陣容だ。

年間約20本の研究成果を公表しているほか、日医の医療政策案の下地や各種資料を役員向けに作成。これらをもとに、日医は政府やメディア、さらに国民に対して自らの考えを積極的に発信しているのだ。時には日医と利害が対立する病院団体の幹部でさえ「日医総研のシンクタンク機能の凄さにはかなわない」と言う。

一方、日本歯科医師会(日歯)の日本歯科総合研究機構(日歯総研)は研究員が常勤1人、非常勤が数人という。研究報告は年間数本。日医総研に及ぶべくもない。

以前、日歯会長が「政策実現集団のシンクタンクにする」などと発言していたが、このままでは掛け声倒れになってしまうのではないか。

歯科が適切な口腔ケアを行えば、身体の病気を予防し、健康寿命を延ばし、ひいては医療費の節約につながる。厚労省も取り込みたくなるような歯科医療政策案の企画や効果的な情報発信、人脈の構築などのため、この時期だからこそ、日歯は日歯総研の強化に本気で取り組むべきではないか。

筆者:元「月刊 集中」編集長 鈴木義男

「東京歯科保険医新聞」2017121日号6面掲載