第4回 3年後 病院の窓口に3台のカードリーダーが並ぶ?!
多額の税金を注ぎ込んだのに、便利に使われていない―。そんなマイナンバーシステムの実態に、会計検査院がメスを入れ、去る5月15日に国会と内閣に報告しました。
2022年度は、マイナンバーの1,258ある機能のうち4割が利用ゼロで、しかも多くが利用率1割未満という実態が明らかになりました。自治体では利便性の向上にも行政の効率化にも、それほど役に立っていないということです。
多額の税金を費やしてシステムを作り、さらに2014〜22年度だけで全国的なネットワークの整備・運用、自治体システムの改修に総額約2,100億円も支出。結果、コンビニで住民票が受け取れるにようにはなりましたが、その1枚の住民票に何万円、何十万円もの税金が使われたということになります。だとしたら、自治体の窓口で1枚300円で住民票を交付してもらうほうが費用対効果はずっといいでしょう。
◆マイナンバーカードの普及には約3兆円の血税が使われた
マイナンバーカードの普及でも、同じようなことが起きています。21年3月の衆議院内閣委員会で、カードを含めたマイナンバー制度にいくらかかったのかと問われた当時の菅義偉総理は、過去9年間で8,800億円と答えました。さらに、22年度予算では6月からの最高2万円分のポイントを付与する事業には1兆8千134億円が計上され、それにとどまらず市区町村でのカード交付事業の補助金などとして、約1千億円を計上。普及促進費用や公金受け取り口座登録制度の推進事業などで約350億円を計上しています。そのうえ翌23年には、患者にマイナ保険証利用を積極的に働きかけた医療機関に配る支援金217億円が計上されています。
こうして見ると、今まで国民の税金約3兆円がマイナカード普及のために使われてきたことになります。日本の人口約1億2,000万人で割れば、赤ちゃんからお年寄りまで一人あたり約25,000円の税金負担を強いられたことになります。
◆携帯電話搭載のマイナ保険証は医療機関では使えない
これだけの税金を使うなら、さぞ「便利」で「合理的」な使いやすいものになるはずですが、現実は、不便なので利用率が低迷しっぱなし。病院に「最高で20万円の報奨金」というアメと、「積極的に勧めない病院は通報しろ」というムチで5月には7.73%になりましたが、まだ低空飛行状態。そこで、この報奨金を40万円にアップしました。
「便利だから使いたい」と思うようなシステムにすべきでしょう。けれども、デジタル庁の「保険証をなくせば、みんながマイナカードを作らざるをえない」という目論見で、物事を対処療法で進めているため、日を追うごとに「便利」と「合理的」からは、どんどん遠ざかっています。
「東京歯科保険医新聞」2024年7月1日号10面掲載
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経済ジャーナリスト 荻原 博子
プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。