診断書の交付義務について

No.287(2013年5月1日:516号5面)

30歳代の男性患者が「左上1番にインプラントを入れたが、具合が悪いので診てもらいたい。前医には行きたくない」と言って来院した。診ると動揺があり排膿もみられた。患者は診断書を書いてほしいと言うが、どうしたらよいか。前医の批判になるとまずいので安易に書けないと思う。何軒かの歯科医院を廻ったが、どこも診断書を書いてくれなかったらしいので、患者さんのことを思えば何とかしてあげたいと思う。

診断書は、「歯科医師が診察の結果に関する判断を表示して、人の健康上の状態を証明するもの」(「病院・医院経営管理質疑応答集〈第1巻〉第121号」1996年8月25日発行(第一法規))です。また、歯科医師法第19条2項に「診療をなした歯科医師は、診断書の交付の求があつた場合は、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とあります。患者さんは、動揺もあり排膿もあって、大変困っているのでしょう。先生に診断書を書いてもらって、それを持って前医と損害賠償の話をしようと思っているのは明らかであり、それだけに先生の書いた診断書が「前医の批判になるとまずい」と感じられたことは歯科医師として当然のことと思われます。

このような場合に、歯科医師は診断書交付を拒否できるのかという問題です。「正当な事由」があれば拒否できるようですが、どういうことが「正当な事由」に該当するのでしょうか。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」(http://www.bengo4.com/)に登録する比護望弁護士は、「診断書が詐欺、脅迫等不正目的で使用される疑いが客観的状況から濃厚であると認められる場合、医師の所見と異なる内容等虚偽の内容の記載を求められた場合、患者や第三者などに病名や症状が知られると診療上重大な支障が生ずるおそれが強い場合など特別の理由が存する場合に限って、拒否すべき正当事由が存在するとして交付義務を免れることができる」と東京簡裁判決を紹介しています。また、別のホームページでは、「現在の症状が前医医療行為の過誤を原因とする旨の記載を求められたような場合は拒否できる」ことが紹介されています。

このようにみると、診断書交付を拒否できる「正当な事由」はかなり狭くなると思われます。ただ、何軒かの歯科医院は現に交付していないのですから、先生も同様に交付しないとしても構わないのでは、と言えるかもしれません。

そこで、通常の診断書の書式は特に法律で定められていないので、診療した時点での歯牙破折など、現状の診断名のみ記載した無難な診断書は、問題になることが少ないと思われます。間違えても患者の言いなりの診断書や問診からの推察など、裏づけのない想像を記載すると後々問題になるので慎むべき行為です。

ほかにも診断書交付義務に関する相談が複数寄せられ、単なる法律の解釈に止まらない相談もありました。一緒に悩むことしかできませんが、お困りの際は協会までご相談下さい(TEL 03―3205―2999:経営・税務部)。