従業員に有給休暇の清算を求められたら

№267:2011.8.1:494号

質問1

従業員から有給休暇を買い取ってほしいといわれた。そのようなことは可能か。

有給休暇を買い取ることは、原則としてできません。そもそも「有給休暇」とは、休日とは別に従業員にまとまった休暇を有給で与えることで、心身の疲労を回復させ、労働力の維持を図ることを目的とした制度です。使用者は、採用の日から6ヶ月間継続して勤務し、かつ、8割以上出勤した従業員に対しては、最低10日(※1)の有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。それを買い上げてしまうということは、有休を付与させなかったことと同じであり、原則として禁止されています。しかし、法定の有給休暇の日数以上に、診療所が独自に有給休暇を与えている場合は、その法定日数を超過している部分について。また、時効により消滅してしまった2年以上前の有休分や、退職によって権利を行使できなかった分については、買い取ることは可能です。なお、例外的に買い取りが認められていても、法律上の義務はありません。
※1 パートタイムなどの短時間従業員は10日ではありません。

質問2

7月末で「退職したい」という従業員から、実質的勤務は6月までとし、7月末までは、すべて有給休暇をあてたいという。しかし、引き継ぎや他の従業員のことも考えると、そのような退職方法は断りたい。どのように対応すべきか。

このようなケースは、従業員とよく話し合う必要があります。退職予定者が残った有給休暇をまとめて請求した場合、診療所としてはこれを認めざるを得ない場合が出てきます。それは、有休の取得にあたり、使用者には労働基準法第39条4項に基づき別の日に変更してもらう“時季変更権”が認められています。これは退職予定日を越えて時季変更権を認めることはできないからです。つまり、退職日までの限られた期間に必ず有休を与える必要が出てくるのです。ご質問の対応としては、円滑な引き継ぎができるよう、その従業員とよく話し合う中で、診療所や周りの従業員のことも配慮するよう促し、理解と協力を求める必要があります。しかし、中には話し合いが上手くいかない場合もあると思います。そのような時の対応策として、消化できなかった有給休暇を買い上げるか、退職日を延期してもらい、その間に有休の消化をしてもらうなどの対応も視野に入れる必要が出てきます。「退職するのだから有休を与えない」などの対応は、労基法上では問題となってしまいます。有休の残がたくさんある従業員は勤勉であり、良いことではありますが、このような時に思わぬ対応を余儀なくされる場合があります。その事態を防ぐためには、日頃から診療所全体で計画的に有休を0消化しやすくする事が大切です。